楡の木と彼
2012.6.30
彼と仲が良かった入居者が「昨日の夕食後廊下で、愛しちゃったのよララランランって元気に歌ってましたよ」と、話をしてくれた。
昨年5月、早朝の急死であった。
家族への連絡などの後一段落し、「彼」を思い出していた。
それは、一週間程前、「彼」は、大好きな高校野球の観戦のため、肌寒い小雨の中、「自転車と地下鉄を乗り継いで円山に行って来た」と、自慢と満足げに、そしていつになく疲れた様子で、鼻水をすすりながら事務室に外出の報告をしてきた。
普段の「彼」は、バイタリティーに溢れ若々しく、90余歳には決して見えず、「うららか」の人気者の一人で、シンボル的な存在でもあった。 一方、「うららか」の敷地内にも、シンボル的な存在の「楡の木」があり、推定樹齢90〜100年とも言われている。「この木なんの木、気になる・・」のCMで有名な、この「楡の木」を眺めていると、何故か「楡の木」と同世代の「彼」のことを思い出してしまう。
たぶん「彼」の思い出は、私が、新米の施設長として就任二か月目の最初の出来事として、特に、印象深く残ったからであろう。
今年も「楡の木」は、存在を主張するように、鬱蒼とした葉を繁らせ
ている。
季節は、大事な人との約束を守る様に、また巡って来た。
施設長 三浦 秀紀